距離を越えてビジョンでつながる「店舗」と「本社」の新しい関係
株式会社リビングハウス
左・株式会社リビングハウス 成長デザイン部 吉津さん
全国に店舗展開する小売業において、「店舗と本社の心理的・物理的な距離」は普遍的な課題です。しかし、全国19都道府県・32店舗を運営する株式会社リビングハウスでは、その距離を越え、店舗と本社が一体感を醸成しているといいます。その鍵を握るのは――空間時間創造本部 創造部 部長の仲丸さん、成長デザイン部の吉津さんにお話を伺いました。
店舗と本社、それぞれのミッション

――仲丸さんは店舗運営責任者として従事されていますが、店舗でのご経験はあったのでしょうか。また、店舗と本社の違いについてどのように捉えていますか。
仲丸さん:私は空間時間デザイナー(店舗スタッフ)として、地元である札幌店のオープニング時に入社しました。8年間の店舗経験の後にエリアマネージャーを経て、現在は空間時間創造本部 創造部 部長として店舗運営の責任者を務めています。
長らく店舗に在籍していましたが、その間、店舗を任される自分たちの仕事は「お客様の価値をつくる」という明確な意識がありました。それはストアマネージャー(店長)になってからも同様で、いかにお客様に使っていただいて繁盛する良い店舗を作っていくかに集中していましたね。
当時は本社に支えてられている自覚があったため迷惑をかけないよう努めましたが、お客様からダイレクトな声をいただくことができ、会社の業績を作っている自分たち店舗の人間こそが主役であり、本社にはそのサポートをしてもらっているというのが率直な印象でした。
自分がしてもらっていたことの意味がわかるようになったのは、本社異動してから。間接的にミッションへ貢献するため、お客様の役に立つため、そう考えれば自ずと店舗で働く人たちが集中できるよう支援するのが重要になります。
それまでお客様の喜びを増やしていただくことにやりがいを見出していたため当初はもどかしい思いもありましたが、現在は店舗で感じていた課題を解決するための施策を実現することに力を注いでいます。

――具体的には、どのような施策でしょうか。
仲丸さん:店舗は接客に集中したいと思いながらも、付随するさまざまな業務に時間を取られてしまうというジレンマを抱えています。そのような付随業務をバックオフィスで巻き取る仕組みを整えるべく、お客様のご注文完了からお届けまでの最終工程に対応する専門部署を新設しました。
接客したお客様を最後まで担当したいのが店舗の本音ですが、扱う商材が家具の場合、輸送中の破損や手違いによる未着等のトラブルは付きもの。お叱りのお言葉やトラブルの原因はさまざまで接客と並行して対応するには限界がありますが、お客様にとってはいずれも同じ大切な購入体験です。原因の切り分けから解決策のご提案までを専門部署が引き受けることで、より迅速にお客様の元へお届けできるようになりました。
対応にあたるスタッフには店舗出身者も多く、「現場で経験した痛み」を実感として持ち合わせていますし、お客様に直接対峙する店舗スタッフたちへの感謝の気持ちも感じています。
だからといって面倒な業務を店舗から本社へ押しやるわけではなく、楽しみにお待ちいただいているお客様の顧客満足度を高めるための全社ミッションとして運用しています。バックオフィスはお客様のための新たな業務にやりがいを持って取り組み、店舗は接客に集中することができ、さらなる相乗効果を生み出しています。
本社と店舗をつなぐ「真ん中」の視点

――吉津さんも店舗での経験を経て、全社横断プロジェクトに携わっているそうですね。
吉津さん:私は空間時間デザイナーとして3年ほど経験を積み、仲丸さんと同じく札幌店でも勤務しました。東京に戻るタイミングで店長職を任されて4年間務めた後、本社の成長デザイン部へ。一度は別部門に異動したものの、この4月から成長デザイン部に戻りました。現在は、現場にも足を運びながら店舗オペレーションの設計やフォローを担当しています。何かプロジェクトを立ち上げるとなるとバックオフィスの意見が大きく反映されることが多いのですが、実際に使うのは店舗スタッフです。本社としては十分に検討を重ねた内容であったとしても、店舗はお客様のためにすべき多様な業務がある中でそれを実行しなければなりません。
したがって、よりわかりやすく、より簡単に伝わる・使える形に落とし込む必要があり、そこに注力すべきだと感じています。店舗と本社それぞれの立場を経験したことで育まれた“真ん中” の視点で双方の良いところ取りができるよう考え、取り組んでいます。
――真ん中の視点、大切ですね。具体的には、どのようなプロジェクトでその視点を生かしているのでしょうか。
吉津さん:たとえば、社内用アプリポータルの制作です。以前は本社から店舗への情報伝達方法が紙のマニュアルであったり、チャットであったりと統一されていませんでした。情報がバラバラでは見づらく、都度本社が研修を組んで情報共有するとしても大変な労力がかかります。
そこで情報を受け取る側は見やすくアクセスもしやすい、発信する側も簡単に情報更新しやすい社内用アプリポータルを導入することで、店舗も本社もスムーズなコミュニュケーションが可能になりました。
仲丸さん:本当に助かっていますね。社内でも新たな取り組みのため、さまざまな意見をヒアリングしてデジタルやAI活用もしながら進めてもらっています。
先ほど自身でも真ん中と述べていたように、本社にいながらも店舗側の視点を持ち続けてくれているのが吉津さん。会社全体の進む方向から逆算し、店舗にとって何が必要か、どのレベルなら受け入れられるかを判断しながら業務推進してくれていて、大変信頼しています。

――店舗の状況をきちんと理解して思いやりながら本社とのパイプ役を担ってくれる、とても大きな存在ですね。
仲丸さん:吉津さんに限らず、本社スタッフの多くが空間時間デザイナーとしての気持ちを持ち続け、同時に店舗への感謝の念を抱いているのが私たちの強みではないでしょうか。店舗にいた時期で状況は異なるものの、当時学んだことを現在の立場でできる限り還元していきたいという思いで働いてくれている社員も多いと感じます。
――先ほどのように本社で施策を決める際、店舗のリアルな状況とズレてしまうリスクにどう向き合い、相互コミュニケーションを図っていますか。
吉津さん:現場経験のない本社スタッフもいますし、どうしても店舗と本社の解像度の違いが生まれることはあります。そのような場合、私のように間に入って双方の意見を伝えたり、可能であれば本社スタッフが店舗へ赴いたりするのが最も有用な方法だと感じます。一年現場を離れるだけでも、その状況は大きく変わってしまいますから。
仲丸さん:新たな施策を始める際は、店舗に意見を聞いてもらうようにしています。実際に取り組めそうか、気づいたことはあるか等をヒアリングしてすり合わせる期間を設けた後、数店舗を選んでテストし、最終リリースへと進めます。これは一斉導入で失敗した過去から学んだ方法です。リリース前は他部門にも広く参加してもらって質問を受け、リリースしたらどんな未来が待っているかまでを共有して理解を深めることに努めています。
店舗も本社も根底は同じ、MVVが距離を越えて生み出す一体感

――常に店舗の立場を考えて意見を聞かれる姿勢が素晴らしいですが、これを当たり前にできる企業ばかりではありません。ミッション・ビジョン・バリュー(以下、MVV)を大事にされるリビングハウスさんだからこそ、店舗と本社が同じ方向をむいて何をすべきか共有できるのではないかと感じます。やはり、普段からMVVを意識されているのでしょうか。
吉津さん:店舗は特に強くMVVを意識していると思います。私自身は店舗にいたころと変わったように感じていますが、それでもバックオフィスが考えたことを店舗がお客様へとつなげてくれているという感覚があります。結局、根底で意識しているものは同じなのかもしれません。
仲丸さん:ミッションとは会社がなんのために存在するかという意義であり、それを実現するための集まりがこのリビングハウスという組織です。そんなリビングハウスのビジョンを実現するためにバリューを体現していくという考えは、店舗・本社にかかわらず社員皆が持っているのではないかと感じます。
バリューには「尽くす」「磨く」「楽しむ」「前のめる」「ひろげあう」の5つの言葉がありますが、最初に「尽くす」と来ているとおり、お客様や仲間のために尽くし、自ら与えていく姿勢がまず重要です。

そして、他者に尽くすためには自分を「磨く」必要がありますよね。特に空間デザイナーはわかりやすいかもしれませんが、鍛錬して自分を高めることによってお客様に還元できるものも大きくなっていくはずです。それらを「前のめり」でやっていくというバリューがあるからこそ、感謝ありきの文化が醸成されるように思います。
また、接客業の中で培われる感覚もバリューへの共感を生んでいるのかもしれません。ショッピングモールのようにさまざまなお客様に開かれた場所で接客を行った経験のある社員が多いためか、相手の立場に立って思考するカルチャーも根付いています。――バリューを体現するための具体的な取り組みはありますか。
仲丸さん:店舗はオープン時間がまちまちですが、平日は全店舗をオンラインでつないだ昼礼を行っています。元は各店舗で個々に行っていましたが、店舗数が拡大していく中、社内での横のつながりを感じにくいという課題を解決するため、全店舗横断型の昼礼に変更しました。
リビングハウスでは手のひらサイズの手帳に製本した「リビングハウススピリッツ(行動指針)」を全社員持っていますが、店舗部門では昼礼の際、持ち回りでスピリッツの一つを取り上げ、具体的なエピソードとともに発表しています。また、東京・大阪の本社部門でも毎朝、同様に持ち回りで発表する朝礼を実施。その最後にバリューの唱和も行っています。
――実際のところ、MVVに対してどんな印象を抱いていますか。
吉津さん:個人的な見解ですが、常に新しいことができるのではないかとワクワクするビジョンだと感じています。
仲丸さん:本社スタッフにこそ、MVVは必要なものかもしれません。というのも、店舗はMVVが仕事に直結するため実感しやすいものの、本社の業務は多岐に渡っていて自分の取り組んでいる仕事がなんのため、誰のためであるかがわかりにくい。そこをクリアにしてくれるのがMVVです。ビジョンを実現するため、皆で同じ目標に向かって進むからこそ一体感が生まれてくるのではないでしょうか。
――最後に、店舗と本社をつなぐための今後の展望を聞かせてください。
吉津さん:これまでやってみたいと考えてきたことを一つずつ実現している最中ですが、まだまだアナログベースでマンパワーに頼ってしまっている部分もあります。AI活用等で業務を効率化し、店舗にはより接客に集中してもらえるようにしていきたいです。同時に、バックオフィスは日々の個々の業務をこなすだけにとどまらず、次のフェーズを考えられる状況へステップアップできるよう、改善を促していけたら。
仲丸さん:店舗スタッフにはバリューの「楽しむ」を体現する存在となってほしいですし、かつて自分がそう感じていたように楽しんで働いてほしいというのが願いです。インテリアを通してお客様の暮らしを良くしていただきたいという思いがありますが、店舗スタッフ自身が成長していけば、お客様にご提案できる幅も広がっていきます。
最高のお店づくりに必要なのは、最高のインテリアだけではありません。限界のない “良い店づくり” を自分たちで手がける面白さを感じてほしい。お店とともに自分たちの成長も感じられ、入社して良かったと思ってもらえる環境を作っていきたいと考えています。

撮影:高木亜麗 文・編集:末松早貴
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